オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


書評『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』 柳澤氏のスタンスが棚橋と共鳴し“呪詛”を解く意外性

Category: プロレスの生む物語   Tags: ---
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廃墟から読書しています。柳澤健氏のプロレス・格闘技史シリーズの最新作がついに現代の新日本プロレスを取り扱った。リアルタイムの題材を取り扱うということは、当然想像するのはやはり予定調和のバイアスで、場合によっては棚橋タレント本の延長になったらどうしよう、みたいなことは発売前から少し思っていた。が、逆に棚橋の方向性と柳澤氏のスタンスが奇跡的な合致を見せるという思いがけない結果が出ている。

あとがきを読むと単行本化の際には「文藝春秋と新日本プロレスの間で話し合いが持たれ」いるわけで、これまでのような仕掛けている感触(『1976年のアントニオ猪木』や『1984年のUWF』で彼らのスタンスを問いただす切り口ゆえに猪木や前田などに直接インタビューできないから周辺から論旨を埋めていく)とは違い、最初から当事者である棚橋と中邑のインタビューが行われ、全編に使われている。

こう説明するとやっぱり柳沢健氏の実績によるタレント本的なゲタ履かせなのか?というと、内容が今に近づくにつれてその気はなくもないのだが、柳澤氏ならではの再検証の面白さがこうした背景であっても実現されている。というのも、本書の前半部分である2000年代の新日本プロレスの暗黒期、プロレスでの言説はといえば暴露本が主流だった時代、彼らの言葉というのはほぼ黙殺されていた。そんな頃をインタビューから振り返ることで、パーソナルな言葉や周辺のレスラーとの関係性の面白さ(みんな大好きな道場スパーリングでの棚橋や中邑の、技術と人間関係上下関係こみのレスラーの強さ幻想みたいなやつね)というオーソドックスな面白さを回復させている点が大きい。

そして、これまで批評的に語られなかった棚橋弘至を上手く語っていることだ。昭和からすれば否定的な言説が並びやすいレスラーなのだが、面白いことに棚橋の言葉をこうまでうまく拾いあげられることに、柳澤健氏のシリーズでこれまでに提示してきたプロレスと格闘技(≒MMA)というジャンルの本質的な切り分けが機能している点だ。柳澤氏の硬筆な筆致で「お前の罪を数えろ」なんて仮面ライダーシリーズのフレーズを出しつつ棚橋のスタンスと柳澤健氏の認識が繋がるという、ふたりのイメージからすると想像もできないことが起きている。

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高田延彦は何を愛し理解しているのか

Category: ウェブ線上の批評   Tags: ---
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廃墟では台風が近づいております。高田延彦vsヒクソン・グレイシーからなんと20周年ということで各所で再考が行われているけど、今から考えるとあの時代が素晴らしいなと心底思うのは各競技のボスが自分のテリトリーを守る強さであって、本当にバーリトゥードで勝負することではないことだ。空手は空手、プロレスはプロレスで出ていかないを貫いた方が偉い。弟子がバーリトゥードや立ち技に挑戦するのはOK。ボスはジャンルを守ることが仕事で弟子筋がジャンルを跨ぐを許すのほうがいいです。

これはつまんねえ考え方なんだけど、むしろ時間が経過したあとにボスが本当にバーリトゥードに出ていって残ったものはなんだったのか、というのが今になって答えが出ている感じがする。高田延彦はほんとうにバーリトゥードを東京ドームでやっちゃったけど、20年後の現在はMMAと呼称が決まったこのジャンルを愛し、理解しているとはどうにも思えない。それどころが、プロレス代表としてヒクソンと闘ったわりに今のプロレスを愛しているとも理解しているとも思えないところが本当に気になる。彼は20年前にプロレスを代表して、初期のMMAを闘うという日本のプロレスとMMAの分岐点に関わりながら、本当のところは何を愛し、理解しているのか。

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テーマ : 格闘技    ジャンル : スポーツ

PRIDE武士道世代という憑き物

Category: MMA   Tags: ---

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2か月ブログ更新が開いてマジの廃墟になりつつあるところからお送りします。

川尻達也がガブリエル・オリベイラにKOされた。40代に入ってからの下の階級への変更などが原因だったかとも言われるけど、いくつかの意味でそうだったな、と思った。序盤こそテイクダウンに成功するものの仕留めきれず、以後オリベイラがリーチ差を利用した打撃で川尻を止めてしまう。川尻のスタンド技術は高いフィジカルを武器にしたテイクダウンに特化したものだが、バンタムの舞台ではフィジカルのアドバンテージもなかったか、それとも現行のブラジルMMAでの技術の高さのせいなのか、2R以降完全にテイクダウンは封じられてしまい、完全に手がなくなった。

それよりも、いよいよ川尻が完敗することにもしっくりくるようになってきたことに時の流れを感じる。この感じは五味がUFCで1Rで完敗していくことに慣れてしまったのと同じかもしれない。国内のMMAでトップスターである彼らに対しての期待がなくなってきた。ここにはもう青木真也のやることについてあまり感情をざわざわさせられることもなくなってきたというのも加わる。PRIDE武士道世代への期待が掻き消えていく実感がここのところははっきりとしてきている。

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テーマ : 格闘技    ジャンル : スポーツ

マクレガーは言われるほどスタミナに問題なくて、ほぼメイウェザーに心理戦で完敗した

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: ---
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廃墟では横から花火を見ています。異種格闘技戦の醍醐味とは格闘技術のコンペティティブな点というより、本当のところは両サイドの心理戦の駆け引きにこそ緊張感がある。思い返しても純粋に技術のみで盛り上がる試合になった試しがない。 

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ジョン・ジョーンズの速度4 

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: ---
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廃墟からまだまだほんとうの廃墟にはならんぞ!最近はゲーム系などで他のメディアにも書き出してるがここはまだまだやってやるって!と吠えています。大分時間経っちゃったがいまさらチャンピオンシップ話です。

以前こんなめちゃくちゃな記事を書いたことがある。コーミエ、ジョンソン、ジョーンズの3人を中核にしてグスタフソンなどが絡んでいくという構図だけども、ファイターの経歴や性格、プロセスのすべてが相互に対照的であり、そこから垣間見えるドラマツルギーの豊饒さをライトヘビーのトップにいるこの3人以上に感じさせるのはあまりない。競技性からなにまでひっくるめて、まだアンデウソンとGSPがトップだったころみたいなUFCの強度を感じさせるのはライトヘビーの彼らの関係だ。 

しかしそんなドラマティックな関係も終わりを迎えてしまうのしれない。今年4月にコーミエとAJがライトヘビー級チャンピオンシップを争い、コーミエの一本勝ちで勝利。敗北したAJはその後引退を表明してしまう。関係や構図を考えるとあまりにも劇的な結果になった。引き続くかたちでコーミエがジョーンズと再び相まみえるというのは、どうしたって何かが起こる期待をしてしまう。

そしてその通りになった。どれだけぼろぼろのスキャンダルを振りまこうが、ジョーンズのスタイルは堅牢だった。あのリーチ差、相手を狙わせないようにスイッチしながら遠距離~中間距離での前蹴りや間接蹴りはもちろん、ジャブやちょっとタイミングがわからないところから放たれる肘やバックキックなど打撃のバリエーションの豊富さはやはり群を抜いている。

あらためてコーミエが遠距離~中間距離のジョーンズの制空権をどう制するのか。これまでかなりのリーチ差のある試合では、立ち技に限っては埋めるためにリーチの短い方が特攻してチャンスに賭けがちな試合になりがちだ。それどころか無理やりワンチャンスの何十倍の倍率になっているところに全財産をベットする戦法が目立つ試合だってあった。セームシュルト君臨時代のK-1とか技術革新が一向に行われないのもあってか、無理やりジャンプしてパンチなんてシーンさえあり特にひどいもんだった。

ここで優れているのはコーミエはジョーンズの制空権をとる行動を潰し、遠距離からの攻撃を封じながら徹底してクロスレンジでの試合に持ち込んでいることである。間接蹴りをガードすればその蹴り足にローキックを返す。サークリングさせて逃がさないようにする。遠距離では前蹴り、中間距離ではボディへの打撃をとにかくジョーンズの打撃を受けて、決して止まらないようにするという削る戦略は徹底していた。(あたりのことが海外MMAサイトなどにかかれてました)。

決してジョーンズの打撃によって下がってはならないし、蹴りを使うことでサークリングを許さないようにすることでプレッシャーから逃がさないようにする。オーソドックスから変拍子での打撃までこなすジョーンズのバリエーションに対してコーミエ陣営のディフェンスが今回のタイトルマッチを味わい深いものにしたのは違いない。しかしそこまでやってもジョーンズの速度には敵わないということが、もうなんというかジョーンズとコーミエが持ってる経歴や性質の対照的な関係を凝縮しているようだった。

あの一発のハイキックで終わってしまうとは…試合は中盤に入り、ほぼ中段の制空権掌握のキックをさばききっていた。1R、2Rはコーミエのポイントだとして、おそらくその時点でこの試合は自分のゲームだという確信を抱いていたはず。でなければ、終わった後に涙を流すわけがないからだ。

泣くに決まっている。コーミエの経歴は悲運の天才であることは確かであり、ジョーンズとの対戦は圧倒的な天才であるそれに対しての差を埋めていく闘いでもある。名誉や報酬やら地位以上の、うまく言語化できないんだがなんらかの持つ持たざる者という差(天才と凡人の差とも違う。コーミエも全然天才だし。38歳だよ?)がもしかして埋まるのか?みたいな試合はときたまある。

ここまでの試合から涙をながしたコーミエに対し「bitchみたいに泣いてるな」とか解説席にいたスヌープ・ドッグは言ったそうだがこれは持たざる者に対しての持つ側の残酷な現実を突きつけるかのようである。スヌープドッグもジョーンズも反社会的で自滅的な行動をいくらでも取るでたらめな天才が、実際捕まったりなんなりでペナルティを受けてその速度が弱まるのかと思いきや、結局そうはならないし依然として持つ者持たざる者みたいな関係を覆すことができない。覆せる可能性にまでたどり着いていたコーミエが感情的になってしまうことを、対戦する二人の背景を知りさえしなければ素直にスヌープドッグに同調して英語圏のインターネットトロールのように笑ってみていられたのかもしれない。

ジョーンズが王者に戻り、コーミエは涙を流し、AJは引退を発表した。自分はアンデウソンとGSPがP4Pの時代以降で選手のキャラクターと競技能力、それらが生み出す暗喩がもっとも質が高いと感じていた3人の関係を面白がってきたけどそれが終わりなのかもなと感じた。ジョーンズの速度は別のところにシフトし始めている。ヘビー級のブロック・レスナーの名前を出したことはもはやチャンピオンシップというよりも、一部にコナーマクレガーのやっていることに追従しようとしているし、噂レベルではミオシッチの名前も挙がっているなどもうそっちの方向が希望されているのかもしれない。

プロフィール

EAbase887(葛西 祝)

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ビデオゲームというフィルターから俯瞰する、現代エンターテインメント総合批評
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