廃墟から予測をしています…
マクレガーによる、大穴にチップを全てベットするようなふるまいは無謀としか思えなかった。
ところが、単なる勝利どころか誰も想像しなかったロイヤルストレートフラッシュまで引き当てるかのようなアルドからの一撃での勝利によって、マクレガーの価値は瞬間的にけた外れにまで跳ね上がることになった。アルドが語った「俺がキングなら奴はジョーカーだ」という言葉は、今振り返れば予言のように聞こえる。
結果、数々のネームバリューを挙げたい選手たちが食らいつくかのようにマクレガーの名前を出すようになった。ネイト・ディアズ、フランク・エドガー、そしてキャラの立つ選手が多い中で没個性的な印象だったはずのハファエル・ドス・アンジョスまでもがマクレガーの価値を奪いに来た。
なぜライト級のトップコンテンダーが彼のネームバリューをぶん捕りに来るのかというのも、減量苦が語られるマクレガーが今後はライト級に変更するのでは…と噂されるのに乗った形かもしれない。また以前にドスアンジョスこうした挑発を残しているのも関係あるのだろう。
オーディエンス(とか言って日本のオレのTwitter観測範囲というバイアスまみれ)からは体格や競技能力からはエドガーとの試合を臨まれていた。これはオレも断然観たいカードだし、BJペンやメイナードはじめ数々の対照的なライバルと闘ってきたエドガーの現在対照的な相手として、マクレガーはこれ以上ないからだ。
ところがそんな期待は外れ、もっとも危険な相手ドスアンジョスとの試合がUFC197にて決まった。
こんなもん無理だ…胴元は何を考えているんだと言うレベルの大穴に賭けたのちにさらに大穴に賭けるレッドゾーンを振り切った博打の連発にクラクラする。しかも試合巧者で階級上のドスアンジョスばかりは、どう考えても勝ち目は見出しにくい。興行的にはキャラの立たないドスアンジョスの名がこれで上がるし、万が一マクレガーが勝てばもう際限がなくなるという博打なのか。
かつてネームバリューを喰らい合わせようとする階級を超えた試合はあった。アンデウソンvsグリフィンがそうだった。しかしその時はラシャド・エヴァンスにKO負けを喫し、弱点が見えはじめキャリアに影が差し始めた時期のグリフィンが相手だった。アンデウソンは見事にKOを奪い、グリフィンからネームバリューを奪い、P4Pの伝説になっていった。
ところがドスアンジョスはコンディションが良いかに見えたセローニをなんと瞬く間にKO勝利するほどに、こちらも全盛期に来てる相手だ。こんなの今度こそ無理だ…だがしかし現在のマクレガーにそれでもまだ何かありうるコンディションにあるのも確かだ。
ガチガチにリスクヘッジしたフォームではなく、身体に力をこめすぎず、相手を釣り出そうとするフォーム。正確な打撃、完全なタイミングに合わせて相手を打ち抜く一撃。それは少しでも何かがズレてしまい、時間が経ち年老いてしまったり、長期に渡り戦線から遠のいてしまったならば生まれないものだ。
普通に考えればドスアンジョス圧勝で終わりだ。しかし、それでもマクレガー勝利に期待はある。平凡な予想はこれから何百試合とできるけれど、時代状況と競技能力が全盛期に入った選手がここまで立て続けに不利な博打を続けるのはまれだし、この全盛期が終わった時、マクレガーが信じがたいほどに年老いるのは目に見えているからだ。
こういうときは山本KIDのことを思い出す。K-1やHERO'esで階級上の選手と平然と戦っていた頃、そんな不利だと思われる条件をも覆す勝利を数多く手にした。しかしやはり長期欠場後にはMMAの水準の変化に加え、本人のあのタイミングや正確さは失われ、代わりにタイミングで一撃ムエタイをベースにしたりと制空権を制する意識になったりあたりから、あの奇跡のような一撃は遠のき、それどころか返り討ちで失神させられることさえ見せてしまった。
大晦日の魔裟斗とのエキシビションでは、正式な試合ではないとはいえただの一発もあの12年前のタイミングを合わせての踏み込んでの打撃が見られなかった。代わりにムエタイ的な制空権での攻め方になっていた。体格もリーチも劣るKIDがそれをやっても追いつめられてしまうだけなのに…奇跡的な全盛期のタイミングを失ったあとというのは、かように残酷だ。
だからマクレガーが完全に時代のタイミングをつかみ、本人も外野も膨大な掛け金をベットしていく様というのはやっぱ乗っかって観てしまう。どのみち残酷なことになるならこの全盛がどこまでいけんのかって話で。
以上、廃墟から厚切りジェイソン風でした…
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