オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


気違いピエロのチェール・ソネン

Category: MMA   Tags: MMA  UFC  チェール・ソネン    
 ■■チェール・ソネンへの見立て全開の観戦記録■■
P1010503.jpg




 試合が終わりインタビューを見た時にはじめて、この試合はアンデウソンを軸にして観るのは間違いだったんだと思った。この試合に至るまでにソネンは持ち得る人格・格闘技術の全てをオクダゴンの中に投げ出した希有な試合であったわけで、今の時代で(しかも特に日本から見る中では)これほど人格全部を投げ出して興行に繋げるために引っ張り、そして格闘技の試合にしたものは気がつけばほとんど見て無かったことに気付いた。この試合はソネンで見るべきだったんだなと、憔悴した表情でインタビューを受ける姿を見ながら痛感したのだった。

 こう書いたらあまりにも酷いけど、正直この試合がどういう結末を迎えるのかという期待をしていた中で、ソネンのバックハンドブローをダッキングされてかわされてからの追撃でのKOという結果、爆笑してしまった。オレは直感的に茶番だと思ってしまった。とんでもないビッグマッチで、さらにアンデウソンの格を上げる素晴らしい結末とも言えるに関わらず。

 オレには偉大な決闘に仕立て上げようとし、そしてこう結末づけられることの因果というか、この試合には極めて相反するあらゆる感情が共存しているかに見えた。そしてその過剰なほどの相反する感情の全てこそが、ソネンがアンデウソンと再戦するまでに投げ出した全人格そのものなのだと感じた。

 その相反する感情とは何か?曰く、あのトラッシュトークに代表されるようなアンデウソンを多彩になじりながらも、興行の開催地と日にちをいうことを絶対に忘れない、病的な執念と生真面目さ。饒舌で臆病。それらのふり幅が極端を迎える頃には、一世一代での決闘であり茶番という相反が生まれていた。あそこまで生真面目に興行と自身のハードルを上げた末の結末は、全てをさらけ出したソネンは戦士でありながらピエロという印象ばかりが残った。

 皮肉ではなく、もう本当にここまで己の全てをリングの中で、それどころか元々決闘場でより闘犬のアナロジーの強い場の割りに、実際は技術によってそうした人格なんてまるで見えてこないことが常態になりつつあるオクタゴンの中で、試合と興行の中でソネンという人間と、そして対称としてアンデウソンという人間が濃厚に浮かび上がってくるという試合はついぞ観ていなかった。ダンヘンvsショーグンのような強度を競いあう名勝負と別に、この手の両者の人格が投げ出された試合と興行の流れというのは特に現在のMMAでは貴重だ。



  

 もうとっくにグレッグジャクソンをヒエラルキーの上位に置くような、現代MMAのディシプリンに馴らされた見方になってる中で今回の文脈は、俗流に言えばもうプロレス的というやつだろう。
 しかし、ひたすらその人間性というものを投じる感情と情動を取り巻くその見立てに対して、格闘技というのは極めて理性的で普遍的なルールと技術体系によって整備していくことで相対化していった、というのが大ざっぱな興行格闘技の歴史の流れなんだと思う。

 その流れの中で、これを言ってしまえばどうしようもないけど近年の格闘技で、興行の中で、リングの中でさらされる選手の人間というのがどうしても貧しい印象が残ってしまうというのがある。オレは本当に毎度難しいと思うっちゃうんだけど、現在の選手でも雑誌からSNSでの発言でもプロの選手としては基本的にアスリートとしての確かなスタンスや展望を示していることは多く、その立場に即した部分の意見ではオレは佐藤嘉洋選手や青木真也選手の言葉より強い勇気や感慨をもらったことも多々あるし、彼らのファンもまずそうした姿勢への評価も大きいだろう。

 が、現実のリングやオクタゴンの中で振舞う際に、どうあがいても生身の人格というのがさらされることは否定できず、格闘技においてアスリートの姿勢というのは、実は二次的な評価にしかすぎないんじゃないかという悲劇が発生する。特に現代のMMAやキックに勝てなければなおさら、その生身の人格を問われる。悲劇だろう。

 ソネンが全人格を披露したことから現行の興行格闘技界隈を振り返るに、格闘技を見る際は基本的に興行的な意図や競技能力・技術体系の解析みたいなあたりが先んじていて、それは進歩や成長なんだけど、その技術や環境の変化の代償に人格というのが貧しくなってくる。日本格闘技は興行を失った代わりに、貧しい正論だけが残った。と言う感じ。

 いや、スポーツなのであるし、試合のパフォーマンスと結果さえあれば十分であり、今回の文脈はハッキリ言って後退した文脈だろうが、しかし格闘技には他スポーツ的な競技を保証する機構や、やはり見せ物であることが先んじざるを得ない出自である以上、極めて適当な感情や情動に引っ掛かる選手の人格というのが表立って問われ、アスリートになればなるほど貧しく見えていくという部分があるように思う。ということでこの試合は改めて格闘技を取り巻く矛盾や相克について考えが及ぶ、喜劇と悲劇が混ざったものだった。

 そしてこれでオレはソネンを好きにはなったが、これがキャリアの折り返しになるのだろうなとも思った。書き切れなかったけど今大会でのグリフィンの年老い方はどういうことかと思ったけど、何かソネンも急速な老いがありそうな気もした。
スポンサーサイト

テーマ : 格闘技    ジャンル : スポーツ

Comments

いきなりコメントを削除してしまい、申し訳ありませんでした。

これまで、ブログやコメント等において、EAbase887様に不快な思いをさせてしまった事をここに謝罪します。

突然ですが、この度、当ブログを閉鎖する事を決断しました。
EAbase887様の洞察力に優れた記事はいつも素晴らしく、自分もブログの記事をアップする上で色々と参考にさせて頂きました。

2年間、どうもありがとうございました。これからも格闘技界に一石を投じる記事に期待しています。

Re: 銀玉さん
> いきなりコメントを削除してしまい、申し訳ありませんでした。

 これは一瞬ビビって、「まさかブログが乗っ取られるのか!?」と思ってしまいました(笑)

> これまで、ブログやコメント等において、EAbase887様に不快な思いをさせてしまった事をここに謝罪します。

 正直に書くと、初期にはK-1系のブログで煽るように書かれる興行論やスター論ばっかに対する憤りによって、銀玉さんのキックの技術論中心の文脈は出来あがったのでしょうが、しかし競技性というものを担保する機構というものを持ちださずに技術を見ろ、競技で見ろというその姿勢、時にはただの個人感情だけなんじゃねえのかとオレにはかなり頭に来たことがありました。(このブログの2010年のK-1MAXファイナルの観戦記録にその時の気分がかなり反映されてます)

 そういう頭に来た感情がけっこうこのブログの文脈の掘り下げの方向に向かい、そもそもの格闘技の競技性とは何か、それは可能なものなのかという思考に向かいましたし、またKGさんの分析とともに実際にある程度の技術論でも見ていかないとまったく本質が見えてこない点に気付いたのも事実で、やはりオウシュウ・ベイコク・ベースもかなり銀玉さんたちの影響は大きく、皆さんの文章に触れていなければいまだに「魔裟斗は情動を表すディオニュソス的で佐藤が理性を表すアポロン的なのだ・・・」とかいうトンチンカン見立てで頭打ちになっていたかもしれません(笑)。自分で見て初期のなんてほんと酷い。

 
> 突然ですが、この度、当ブログを閉鎖する事を決断しました。

 さらにさらにぶっちゃけると銀玉さんももっともっと格闘技を競技として見させるようにするなら、ではどういう機構になるべきだったのか?という、個人の感情を越えた本質論に展開する方向で言って欲しかったです。もうどういう時代や情勢になろうと普遍的に見通して行ける展望というか。

 例えばNBAを見ていたことなど書かれてますが、これをUFCとMMAなどと比較して行きながら興行と競技、アメリカンスポーツうんぬんにまで広げるとかやって欲しかった。オレはNBAのことは分かっていないし、そういう他スポーツと格闘技の機構の問題を比較していくというとこは読んでみたかったです(まだ閉鎖してないッスよね?あと一回で終了だそうですが、そうだここで滑り込みリクエスト!難易度がちょっとヤバいかもですが(^^:)

> EAbase887様の洞察力に優れた記事はいつも素晴らしく、自分もブログの記事をアップする上で色々と参考にさせて頂きました。

最後の記事が上がったときにそちらにコメントさせて頂きます。しかし、「お疲れさまでした」とか「また機会があったら・・・」みたいな通り一変の糞偽善コメントはしませんよ!(笑)もちょい建設的なこと書かせて頂きます。

Leave a Comment

プロフィール

EAbase887

Author:EAbase887
人気ブログランキングへ

ビデオゲームというフィルターから俯瞰する、現代エンターテインメント総合批評
「GAME・SCOPE・SIZE」もやっております。ゲームの他に映画・アニメ・小説なども取り扱っており、興味があればこちらにも。

人気ブログランキングへ


ひっそりとド偏見アニメネタレビュー「14ー21歳のセックスか戦争を知ったガキのモード」「もスタートしましたので、妙に少なくない格闘技ファンとアニメファン兼用の方はこちらもよろしくお願いします。

TweetCasting

ツイキャス・LIVE放送中はこちらからでも視聴できます



 
検索フォーム
 
 
 
 
 
 
ブロとも申請フォーム
 
 
QRコード
QR