オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


ピーター・アーツ引退でGLORY13は在りし日のK-1の夢を見せるかと思いきや、FEG時代の悪夢が蘇る

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: K-1  立ち技  
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 さてK-1で幾度もチャンピオンになってきたピーター・アーツ、レミー・ボンヤスキー、セーム・シュルトらが揃って”日本で”引退するということをフックとした興行であるGLORYだが、それはおそらくは忘れられし栄光のK-1の時代をしめやかに懐かしみ、幕を引くのを見守るというものになっている…はずだった。

 現実ではセーム・シュルトはなんと欠場してしまい、それでも心臓の病気ゆえということならなんとか聞き入れられるのだけど会場にさえ現れなかったりする上に、さらにはオープニングビデオなどやアナウンスなどでもほとんど触れられていないというくらいだ。

 にもかかわらず大会のムードは切なくレジェンドを送り出すというムードに満ちている。この瞬間に、痛烈に皮膚感覚で思い出されてきたのは往年のK-1のスター性と競技能力と興行の揃った興行ではなく、あらゆる焼き畑農業的で次には決して繋がらないモンスターから引退といった興行のフックに特化された、FEG政権時代のジャンルがまるで前進する感覚を観客に与えないあの鈍痛の感覚だ。

×ジェロム・レ・バンナvs○セルゲイ・ハリトーノフ(0-3判定)

 レバンナは紛れもなく初期から全盛期までのK-1のスターとしての顔となっていくことから競技能力、それからK-1周辺のキックからボクシングといったコンテクスト越境まで含むまでのジャンルの革新を行い続けてきた一人だった。

 ところが2002年に左手を故障して以降はそのまま代表の石井和義の脱税によりFEG時代に書き換わるのに合わせるかのように、左手のダメージに悩まされ徐々に失速し、あのデトロイトスタイルをキックに昇華させた技術革新はなりを潜めていき、年月を重ねるごとにしなやかに全身の動きを踏み込んで乗せる身体つきではなくなり、過剰なフィジカルによるキックの中間距離で攻防をおこなっていくような停滞したスタイルへと変貌していったと思う。

 そして現在。まったくデトロイトスタイル式の脱力にともなう全身連動の革新的なあの動きは欠片もなくなっており、やはり強固なフィジカルで全盛期よりもはるかに硬化したスタンスで構えているという姿のままだ。(IGFでプロレスやったということは関係ないが何故か今の長州力を思い出したりした)

 そんなバンナと相対する、なんとハリトーノフのほうが脱力して全身連動のデトロイトスタイルで向かい合って、硬化したバンナを完全に圧倒するのである。往年のK-1の思い出がコンセプトのこの大会で、全盛期に使っていたスタイルを相手が使い、かつて自分が倒してきた硬化しがちなスタイルに自分がなってしまいダウンを取られるなんてこんなのどう考えても皮肉めいてるとしか思えない。


×レミー・ボンヤスキーvs○アンダーソン・ブラドック・シウバ(0-3判定)


 FEG時代以降になってからはK-1本体のブレイクスルーは曙vsボブサップを代表とするように一時的な興行面以外の根本的な競技能力のトップからボトム面の底上げは大幅に遅れる。

このあたりからモンスター路線を取っ払った本体の競技能力の光景はというと、いささか単純に記すとまっすぐに立った姿勢によりベタ足での移動、基本的には顔面やボディを固くガードするかバックステップで下がる防御でボディワークの比重が少ないなかで、打撃のコンビネーションを打ち終わったら相手が打ち返してくるのをガードしあうというキャッチボールのようなドラゴンクエストのバトルのような交代交代での打ち合うというのをいかにフィジカルを上げて精度を上げてやるかというのが多くなっていた。いわゆるダッチムエタイだ。格闘技見始めた当初「立ち技なんだか面白くないな」と思った光景の大半である。

 ボンヤスキーはその頃にグランプリを制してきた選手であり、キックの中間距離での戦いの象徴的な選手だ。ブラドック・シウバとの試合はやはりというか中間距離での攻め合いであり防御技術もガード起点というそれで、ボンヤスキーのそうした中で変調を生む位置で放つ飛び技という光景となった。

 ここまでならまだいいんだが、やはり往年の亡霊の影をいやでも想起させるのは観客の感覚とはどうにも反り合わない判定だ。

 なんかもうシュルトに続いて裏でボンヤスキーもそういう仕打ちか、BSフジ放映版はインタビューいきなり切るしな!とやはり数々の不可解な判定が挙がった際に取る陰謀論に引き摺り込まれかねないんだけども、まあ試合をよく見なおせばボンヤスキーの手数の多い打撃もほぼガードしているし、シウバも攻勢に出ているため決してリングジェネラルシップを取られきった試合というわけではないということで各ラウンドとも白黒つけがたい点があったため、同様に揺らいでいるだろうジャッジを集計したらこうした判定もありえた。という判断でいいのかな…スタッツだけ見ると試合トータルではレミーがヒット数勝ってるわけだけど、やっぱラウンドマストで各ラウンドでの印象だよな…パンチの方を判定で取るのがK-1だよな…などと往年のK-1で数々の納得のいかなかった記憶と感情が呼び戻されていく。


 往年の亡霊というか黒魔術感が凄まじいと言えばこれボンヤスキー来年に試合があるから実は日本限定の引退というのもやはりありし日のFEGの味わいとしか感じられない。後で「えっ、引退したんじゃないの」という観客の疑問をかわす為に実況も「日本引退です」なんて妙に不自然な言い方していて、だからほかの国ではまだまだ続けるよ、嘘は言ってないというアナウンスを作っておくこの詐術の感じは谷川貞治による数多くの公式見解や発表を耳にしてきた記憶を痛烈に呼び覚ます。

 ダッチムエタイスタンスによるキックの中間距離での張り合いに終始…観客の感情移入とズレる判定…でたらめなのに感動の流れに持って行こうとする引退の取り扱い、そして人気のない王者への扱いの残酷さなど往年のK-1の美しさなんてものはなく、FEGの悪夢的な体験を再び味わい直すという頂点にある試合だった。


○リコ・バーホーベンvs×ピーター・アーツ (判定 2-1)


 バーホーベンといったら映画監督のポール以外はろくなものがいないとすら思えるくらいキックの中間距離外からアーツが離れるとバーホーベンの打撃が空転する。

 バーホーベンは今年グーカン・サキ、ダニエル・ギタと現行の立ち技の中ではキックの中間距離の強さに加えボクシングやムエタイの懐の深さを消化しているトップに判定勝利しているが、ざっくり見るにまさに現在のシーンのダッチムエタイスタンスが進んで競ってる体幹の強さ・フィジカルの強さや、中間距離での張り合いではもう少しボディワークも絡めていることや踏み込みのある打撃などのパラメーター量が非常に高い点が今日の位置まで来たのだと思う。

 しかし現行のMMAやボクシング選手で少なくはない、上体を硬化させず全身を連動させる身体の使い方を軸にしたフットワークからボディワーク、そして打ってすぐに相手の制空権から離れていくというスタイルに関してのパラメーターがどうもバーホーベンを見ている限りほぼ存在していないのではないかと思わされる。

 実際、アーツはもうバーホーベンがいちばん攻撃力が発揮できる距離を外す戦いをしてる。足を使って距離をとり、飛び込んで打撃を撃ってクリンチという戦型で行ってる。それにバーホーベンが予想以上に対応できてないいう。

 これは近年のバダ・ハリvsザメドフや、当のアーツがシュルトに挑んだ時の動きの互換と言えるかもしれない。前回のサディックを劇的な逆転KO勝利というのはアーツの意地と評価というか、あれ実はサディックもほぼキック中間距離で強振するのが主要な制空権だったので、セコンドに言われたという「戦術はもういい。喧嘩でいけ」というのが結果的に一気に距離の外から飛び込んで高速で打撃という制空権外からの対応できない一撃もらったというだけだと思う。

 しかし、全身連動の能力の高めだったバダハリが一線を離れて以後も続々とダッチムエタイスタンス周辺しか強化するパラメーターの見えない選手というのが登場しているという感覚しかバーホーベンには抱けない。なので世代交代の意味合いながら、二人の試合のスタイルを比較するにバーホーベンの方がずっと保守的で引退するアーツの方が急進的という奇妙な逆転が存在しているのである。それはk-1らしい興行意図と試合内容が噛みあった感動的な結果ではなく、ジャンルが前進する実感を与えないFEG時代の鈍痛そのものだ。
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テーマ : 格闘技    ジャンル : スポーツ

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