オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


B.Jペン・完結

Category: 格闘家たちのプロファイル   Tags: ---
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 BJ・ペンの往年の単なるスポーツ的な範囲では括れない強烈なバイオレンスの気配を持つ姿を思い出すと、エドガーとの3戦目の姿はまるで毒気が抜けたような・なにか解脱したような感じさえ受ける。それはかつてリョートからGSP、マット・ヒューズといった上の階級の人間に果敢に立ち向かったのに対して、ストイックかつ計算高く行わなければならないフェザー級にまで階級を落とさねばならなかったゆえか、それともまるでBJのスタンスとは真逆な身体をまっすぐに伸ばし、向かってくる相手をカウンターで迎撃しようとするかのようなアップライトのスタンスに変えたゆえか。

 ステップ&レスリングのエドガーに対して、おそらくカウンターによる迎撃を目的としたBJの直立スタンスへの変更は直近のバラオンvsディラショーを考えても悪手だとしか思えず、当然ながらエドガーの多彩さの前に翻弄される完敗する。そして引退が発表された。それをスムーズに納得できたのは、どんな時であれもはや選手本人の本質から発動している攻めや圧力から試合を作ったのではなく、急造の戦略に乗せられペンの本質がなくなったように見えたせいかもしれない。




 ペンの本質、それは確かな技術の底にある狂気や獰猛さだ。ライト級最強と呼ばれ、五味をして「試合中に恐怖を覚えた」といい、青木が目標としていた頃のBJ・ペンの狂気性やどう猛さ、それはMMAの競技環境が整備されることによって発生する規律的な・管理的な不自由な印象をアゲンストするかのような印象があった。

 ちょっと前ならペンの狂気性に関してこう考えもした。出身地であるハワイという面さえ照らし合わせ、ハワイは今でこそ観光地として有名であるがその昔には血生臭い原住民と白人との衝突があり、やがて植民地とされ現在のような明るい南国の観光地のイメージへと変貌した。だがしかし楽園というイメージの奥で抑え込まれている血塗れの歴史があり、ペンのどう猛さハワイの本当に恐ろしい所を~だなんてでたらめなことをちょっと思ったりしていたが、実際にはアイリッシュアメリカンの父親とコリアン3世のアメリカンである母から生まれ、ハワイで抑圧された先住民族とは関係は無い。

  これはペンの狂気やど獰猛のオブセッションに対してなにか物語や理由を欲しがるオレの問題だ。トップファイターはおおよそ何らかの異形性を抱えている。その異形性がいつどこで発生し、ここまで突き動かし、やがて消えるのかそれとも続くのかの理由を少しでも見たいのだ。



 ペンの狂気と獰猛のオブセッションの強さをより思い知らされるのは単純にMMA進出以前の競技歴もある。あの強面の圧力から放たれるジャブ、ワンツーで宇野薫をも秒殺したイメージだが、一番最初に打撃格闘技を習得していたわけではない。17歳のころに隣に住んでる奴が持ち込んできた柔術から習い始めたのだ。その後ハウフ・グレイシーに師事し、ノヴァ・ユニオンにてアンドレ・ペテネイラスに黒帯を授かる。そして柔術世界選手権でブラジリアン以外で初のトップになったというガチガチのグラップラーだ。だがしかしペンはここから圧倒的なストライキングそして圧倒的な制空権の制圧のスタイルとなったのだ。


 このことは今の環境からしても異質な、数少ないケースのように映る。現在のようにMMAのメガジムの体制が整いメソッドが浸透していてさえ、柔術のトップのMMA転向後のスタイルはデミアン・マイアやチャールズ・オリヴェイラらを見ても、彼らの多くの試合展開は優位なグラップリングの展開を中心にして試合が構成される。打撃というのはそこに繋げるための距離や展開を図るために習得されるものだ。

 しかしペンは圧倒的な獰猛さによってマット・ヒューズやジョン・フィッチのようなレスリングの猛者とさえも渡り合うのだ。ライト級の王者に君臨していたころから上の階級の人間とさえ果敢に立ち向かい、試合の中で確実に狂気や暴力を刻印してきており、それは間違いなく格闘技を観る根源的な理由になる光景だった。




 この狂気やどう猛のオブセッションはどこから来たのかはわからない。しかしそれがいよいよ競技環境が整備されゆく時代の中でより強い印象を放ったのは確かだ。実際にペンもMMAのこうしたスポーツ的な整備が決闘としての意味を消していくことに関して反論していた記憶がある。

 エドガーとの試合はそれは今でも引っかかる判定の問題などもあったが、当時のオレの気分としてはペンのオブセッションの行き場が無くなっていくこと、それは環境が整備されるMMAから狂気やどう猛といったものが見られにくくなるのではという予感と重なっていた。


 やがてウェルターに上げ、その印象のままに闘うことになるのだが、その結果はペンのオブセッションがより行き場を無くしていくかのようだった。ニック・ディアズやローリー・マクドナルドと闘うのだが、彼らの体格差や戦術の差、詰めの細かさによって判定で敗北していく。

 しかし敗北があろうとペンのオブセッションまでをその時点で終わったとは見ていなかった。伝え聞かれる引退の話も、ありきたりなダメージが蓄積したせいだ、長年の試合の疲弊だというのも見てきたのだが、あのオブセッションがある限りペンが現役を続け、どうあれ試合にそれを刻印することを期待していた。だが、エドガーとの第3戦によってそれが完全に失われたことを思い知らされる。フェザー級という競技環境が醸成した結果を受け入れやせ細り、そして急造の戦略だろう直立の姿にはペンの持ち得ていたオブセッションの全てが無くなっていた。


 本当のところ、ペンがいかにしてあの狂気と獰猛を形成し、そしてそれが消えていったのかはわからない。出版された自伝なりに目を通せばなんらかの答えはあるのかもしれないが、そのオブセッションは競技的整備の進みゆく現代MMAの中で常に決闘の気配をもたらしていたのだ。



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テーマ : 格闘技    ジャンル : スポーツ

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