オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


音楽フェスに政治を持ち込むな!なんて話題があるが、格闘技に政治を持ち込むほうがヤバいって

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: ---


 廃墟でvaperwaveを聴いています。

 フジロックにSEALD'sの奥田くんが参加したりすることで「音楽に政治をもちこまないでほしい」という反応が出ているようだが、これはたいしたことはない。本質は音楽が政治を持ち込むことよりもポピュラリティがまるで得られていない小物が入り込んでくる違和感だと思う。(それにしても、奥田くんというのは世界的に学生運動や革命が吹き荒れた60年代ならばちゃんとポピュラリティを得て支持されてたのだろうか?2016年のあの手の24歳も、60年代のあの手の24歳もあんまり差は無いと考えているけれど。)

 エンタテイメントに政治が持ち込まれることの悲劇に関しては、むしろ最近では格闘技のほうが危険かもしれない。そう思わされる最近の試合がある。ロシアのEFNで行われた、あのヒョードルとブラジルのベテラン・マルドナドの試合だ。

 この試合結果はヒョードルの能力の衰退という文脈でほとんどが締められているのだが、ところがその背景はそんなもんじゃないようだ。競技能力は衰退していても、積み上げられた名誉は残っている。その名誉が政治目的も絡んだ興行に使われるから、悲惨なことになった、という話がある。




 まず試合内容を簡単にまとめよう。ヒョードルが今日の名誉を得るまでに積み上げてきた、残酷さと技巧による圧倒はなくなり、まるでMMAの新人がプロデビュー直後に憧れていたヴァンダレイシウバ、アックス・マーダラーのラッシュを序盤に放っているみたいだった。

 相手に効かせてガードが緩んだところに畳みかけるそれじゃあなく、かといって隙間を縫うような打ち方でもない。モーションの大きなラッシュは当然読まれており、マルドナドは全てガードしていた。こじ開けるかのように続けられ、体力を大きく消耗したヒョードルはまさかの腕がまるで上がらないスタンスになってしまう。信じられない…もちろんこれはボクシングでいうL字ガードスタンスのような脱力やフットワーク、カウンターを取る柔らかなそれのわけがない。マルドナドがこの状態のヒョードルに対してフィニッシュに持ち込めなかったならばマジでやっぱりアンダードッグということだし、実際序盤ラッシュで仕留められるだろう絶妙な相手と思われ、今後予定されてだろうUFC契約に向けた意味でもマッチメイクされていたんだろうが…




  競技能力が衰退を始める一方、出来上がった名誉はそう簡単に目減りはしないため、利用される。単純に興行でPPVなりゲート収入にするための顔役になるのが大きい。だが試合内容がそれに応える物とは限らないし、たとえば桜庭は10何年にもわたってそうした悲惨さを見せ続けてきた。よもや世界最強と謳われたヒョードルがそうなるとは…と思わされるのだが、しかしどうも興行の贄にされるというレベルではないようだ。




  なまじプーチン大統領と近いことが、ヒョードルの名誉が政治的な部分で翻弄される結果になった。MMAファンであり、柔道をはじめ様々な格闘技の段位を取得している背景もあることから、プーチンとヒョードルとの接近が始まったのはよく知られている。ところが現在のそれは単なる親交のみを意味しなくなっているようだ。かねてから政治家に転向か?という噂がかなり前からあったり、昨今でもプーチンの訪日を狙って安倍首相が政府顕彰を与える案がニュースとなっていた。だがロシア国内においてのそれはどうやらその比ではないのかもしれない。話を続けよう。



 MMAニュースサイトのひとつbloody elbowにて今回の興行とヒョードル対マルドナドの背景に関して言及したエントリがある。主に今回の試合の舞台・EFNに関わっているジャヴジン・マゴメドフについてなのだが、どうにもきな臭い話が満載されている。

 マゴメドフは港湾会社や物流会社を傘下に収めるスマ・グループの会長としてロシアの経済界で実力を発揮している人物であり、同国でも屈指の富裕層である。中国企業がUFCを買収するしないの話がある裏で、このマゴメドフも買収をしようとしていたという話もあったという。そんな人物がEFNに関わっているというのは、ステーションカジノのボスがUFCの運営を…という業界のトップからしてそうであるようにな、未だマネタイズも文化的な立ち位置も決まりきっていないMMAのジャンルに投資する心ある富豪という、よくある構図である。

 ところが今回のヒョードル対マルドナド戦の裏にある、政治的な思惑は、マゴメドフ氏のこれまでの活動が関係している。


    マゴメドフ率いるスマ・グループの躍進はメドベージェフ元大統領時代に遡る。任期一年目のころに20億ドル以上も儲け、やがてロシア政界と取引を始め、マゴメドフのスマ・グループはそこで政界での立ち位置を確立していったとのことだ。現在ロシアの副首相を務める、当時の補佐官であるアルカジー・ドヴォルコビッチとは大学時代の友人だったという関係すらあるという。

 だが2012年にプーチンがふたたび大統領の座についてからはマゴメドフの政界への影響力は弱まっていく。メドベージェフ大統領時代にはプーチンが首相を務める二頭体制を整えていたとのことだが、次第に関係は悪化したということもあったのだろうか、プーチンはメドベージェフ体制の時代に大儲けをした実業家に狙いを定めた。マゴメドフと関係している政界の人間を解任、マゴメドフが築いた地位は徐々に崩れる。プーチンの大統領再就任以来、ここ数年、マゴメドフのスマ・グループは政界への影響力を弱めているらしい。プーチンは2018年まで大統領を務めるのだが、失いつつある自身の影響力を取り戻そうとする試みをいくつか行う。そこで、プーチンと親交のあるヒョードルが出てくるということだ。

 bloody elbowに匿名でタレコミがあったという。その内容はこうだ。EFNがなぜヒョードル対マルドナド戦を6月17日に行ったのかというとその裏には開催日の同日にサンクトペテルブルク国際経済フォーラムがあったからだという。プーチンが主催するこのフォーラムでは、野心的な実業家が大統領と交流を図っている。マゴメドフはそこで親交のあるヒョードルの試合を見るためにプーチンは駆けつけるだろう…と踏んだとのことだ。だが結局のところ、プーチンは今回のEFNを見に行かなかった。

 かようにヒョードルの類まれな競技能力から培われ、また格闘技にも理解があるゆえにプーチンとの親交ができたものがなんとこうした形になってしまったのも、富豪マゴメドフが自身のロシア政界への存在感を復調させようとするために仕掛けた、という見方が強いようだ。

 当のファイトパスで放映されたロシア系のアナウンサーによる実況ではどうにも興行の背景を見切ったような発言が多かったようだけど、なんというか往年の亀田対内藤で運営側に近い立場でありながらも外様な位置であるTBSラジオの方が「最低の試合です」とか辛辣な実況をしていたような感じで、マゴメドフ氏の意図による唐突さやうさんくささも見えてのことかもわからない。




 どうあれヒョードルがらしくない動きだった理由にそうした背景がどこまで関わっているかはわからない。ヒョードルがあそこまで身体の連動や強度を無くした打撃を放っていたことは、あまりなかったはずだし、カーディオが切れてまともな構えさえおぼつかなくなると言うのも見たことはなかった、興行を成功させるためと政治的な策謀の二つに名誉が生け贄にされることで、不可解な内容となっている。もはやロシア判定だというところの疑問とか、そんなレベルですらない気がする。


 今回の試合に関して「ヒョードルが桜庭のようにされるのでは」という感想も少なくなかった。名誉を贄に衰退期にはいった選手が壊されるという、あまりにもな見世物を日本国内のMMAファンは見せられてきたと思うのだが、ヒョードルに関しては政治的なそれさえ入るのだとしたらその暗黒面は深い。UFCとの折り合いの話すら含めれば、この試合の背景がどうにも格闘技と政治、名誉にまつわるえげつないことに巻き込まれたものとしか見えない。もはやUFCに通用するとかそんな次元の問題じゃない、競技能力の話だけに絞れるのは平和な世界だ。桜庭があの名誉に関わらずまともなMMA練習環境があるようには思えないように、ヒョードルもどう見ても良い環境の中にあるとは思えない。

 
 冒頭のくだらない話に戻ろう。音楽をやる人やフェスを開催する側が政治発言、関係者を呼ぶくらいのことはさして問題でもなんでもない。プレイヤー側が積極的に政治発言する姿勢が目立ってしまうと言うだけだ。しかし実際はスポーツや格闘技のジャンルにて、「本来交わらなかった人が競技を通して繋がるようになる」みたいな結果をもって、スポーツ外交を行うんだ…なんて当たり前に聞くようになったくらいに実際政治利用されるケースに関してはあまり騒がれない。選手が自発的に政治的スタンスをアピールするならば話題になるのだろうが、外部からオルグされることに関しては対してはさして話題にならない。だが実際はえげつない。今回のヒョードルのケースはスポーツや格闘技のある種の政治利用が悲惨な結果に結びついていると言う、政治が関わることの暗黒面が凝縮されている。

 今まではヒョードルとプーチンの並びをある意味シャレとして見逃していたところもあるのだけど、いまやそれはヒョードルを壊すシャレにならない意味に変わりつつある。競技の結果で出した名誉が政治に巻き込まれるようになるとろくなことにならない、ということのほうをもっと訴えるべきだ。どうにもならなくともね。以上、廃墟からt e l e p a t h テレパシー能力者を聴きながらでした… 


 (※今回の記事の元はbloody elbowのエジプト出身のジャーナリスト兼編集者、カリーム・ジダン氏の視点のみを参照して書いてます。極端な話、拳論の片岡亮の記事だけを頼りに亀田問題&日本のボクシング問題をスウェーデン人が書いているものとしてお読みください)


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