オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


2010年9月25日時点の日本格闘技の「メジャー」・消えた歓声

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: ---
ピザッツアンフォルム_copy

TBS「亀田大毅VS坂田健史」「DREAM16」

 今この日本にて、数々の雑誌から地上波TVなどのメディアが弱体化・または相対化していき無効に近づいているにも関わらず、旧来型の方法論を抜け出せないまま縮小していくという豊穣さ無さのが今日の不況の中の憂鬱な点で、格闘技界というのが特に喪失が深い。あらゆる「メジャー」が弱体化していくことを示すような歓声の消えた会場。欲望の喪失に関しての考察。

<<背景音楽・イースタンユース 「素晴らしい世界」クリック展開>>

 TBS、そして亀田、石井と連なる、ボクシング、柔道といった旧来の権威のほつれの象徴としてのヒールをフックとする、TV、雑誌などの大メディアの捏造に見られる利権の構造についての隙を猛烈についてくるネット登場以降にもっとも槍玉に挙げられるTBSによる特番としての「メジャー」が今この時点でどれほどのものになっているのかが試されたこの日試されたように思えた。

<<番組第一部 WBA世界フライ級タイトルマッチ  ●亀田大毅VS坂田健史×>>

 ゼロ年代に登場したヒールたちはある意味では大メディアの権威と権威を相対化する新興メディアとの摩擦の産物だ。

 今ボクシング世界チャンピオンという権威構造自体も数々の暫定王者などの存在などを代表に揺らいでおり、純粋な競技自体の魅力を、ということだけでは見なくなってしまっているし、長谷川穂積も内山高志も凄まじい競技能力を持ちながらその存在を限定的としてしまっている。

 これは日本ボクシングの問題として国内での「世界戦」のみに限定され、野球やサッカーのように欧州圏や米国圏への挑戦、「世界の舞台で闘う日本人」の文脈を実現しきれないことなども純粋な競技としてのボクシングの物語を享受するにあたっての壁となっているように思え、無論日本人の米国ラスベガスでの世界挑戦が日本のTVで放映されるとしてそれが国民的に受け入れられ高い視聴率が望める代物ではないだろうが、少なくとも日本国内で世界戦を行い続けるということの構造的疲弊からは脱却できると思う。

 現実にアメリカへと渡ったボクサーとして西島洋介の悲劇もあり、格闘技中もっとも歴史が深く競技的完成も深く一種の権威が信じられそうになるが、実質的にワールドスポーツとしてのボクシングの現在というのは日本国内の文脈では膠着している印象がある。MMAからボクシングへと転向した三浦広光選手など日本ボクシングの文脈において一抹の示唆を与える選手もいるが、なんにせよ日本と世界との舞台のパワーバランスの問題として「競技としてのボクシング」が苦しいのではないかと邪推する。

 亀田というのは実質的に日本(あるいは世界の)ボクシングの競技構造の停滞をあざ笑うかのように台頭してきた存在と思われ、あのゼロ年代ボクシングの光景を決定付けた亀田対ランダエダ以降の「権威の崩壊を巡る闘い、歴史を元に洗練された競技の正統を信じたい願い」は今だ継続中だと、挑戦者・坂田健史に送られた観客の声援に対して感じた。

 いまや日本国内の格闘技興行がフックとするものとして「日本VS世界」の構図が国民的感情にクロスすることはなく、実際にそれを立証するには現地での挑戦というのが説得力が高いと思われるがそれも遠い中で、現在の日本国内のボクシングが描き出す構図は「権威の崩壊の現実VS権威の一時的回復の信仰」の闘いであり、手数を出して攻め立てる坂田と、体を柔らかく使いながらカウンターを狙う大毅の対称的な試合はゼロ年代に生みだされたその闘いが終わりに来ているのかそれとも新たなチャプターに入ったものなのかはわからないが、両者ともに歓声が送られているのを見るに比較的ハッピーなところに落としこまれてる印象もあった。
 
 「権威の崩壊」という現実に象徴的なヒールと「権威の回復」としての選手がリング上で闘うことで観客にその日本の一種の現実を象徴化したようなドラマを展開できている内は幸福なのかもしれない。本当の恐ろしさはヒールがいなくなった時だ、と相撲の朝青龍の電撃的な引退とその後に展開された相撲界の不祥事が明るみになることによるスキャンダルの展開の後味悪さに対して思う。
 白鵬の歴史的な連勝が現在ニュースを飾っていても、それは栄光に彩られたものではなく受難のように痛々しく映るし、それはやはり白鵬の闘いというのが先の権威の崩壊を指し示す事態に対しての闘いを示せず、「歴史に残る連勝」という競技正統性だけにしか逆境の現実に抵抗するチャンネルがないという、それこそ一人相撲になっていしまうことの悲劇がそこにあってカタルシスが生まれないのだ。朝青龍の不在というのが想像以上に痛々しいものになっている。

 亀田の喪失という事態が来るのかどうかはわからないが、その時にはボクシング界の権威を揺るがすキツい事態が露呈するということが起きてしまう気がする。無論直感で何のソースも相関関係もない話だが、2010年代にまずヒールが消える、という事象がありえなくもないように思う。亀田大毅が防衛し、相手をたたえる謙虚なマイクにて幕を閉じた。

ネオン夜中


<<番組第二部 最強格闘技DREAM16>>

 ボクシングや相撲のような一抹の権威が存在する格闘技に関しては権威を脅かすヒールとの闘いがドラマを形成するのに対し、興行格闘技は「なにが最強なのか?」のかねてからの観客の欲望の過実現が元になっているため権威など関係なく(K-1、MMA、プロレスの違いが分からないという声がそれを証明している)バリバリのヒールが成立しにくくて、あの秋山成勲のヒールの成立にしたって格闘技の「メジャー」の立役者である桜庭和志に対しての反則という行為が元であり、その底には当時のDSEに対してのFEGの画策など、翌年にPRIDEが消滅することも考えれば格闘技バブル時の東西冷戦最後の象徴的事件であったが、UFCに渡った今、別口の話だろう。

 DREAMに切り替わった瞬間に慄然としたのは、それは所の敗戦でも桜庭の敗戦でも石井の膠着でも青木の膠着でもはたまたダイジェストで発覚した前半の固い試合の連続でもなく、観客の歓声というものがまるで聴かれなかったことだ。少なくともTVで見た限りでは。

 歓声というのは特に観客の欲望によって後押しされてきた権威なき興行格闘技においては、その声の量がそのまま欲望のパラメーターとして見てとれる。そういう意味では今回DREAMは前大会中最低の欲望しかかけられておらず、会場の客の大半がいまやネットで情報をあさっているハードコアなファンでここまでの失望の経緯を熟知しているゆえにもはや欲望を喚起するセクションを喪失してしまったのだろうか?「会場が名古屋だから」とかそういう関東以外での観客の温度差でもあったのだろうか?ちょっとどうかというくらい、会場が静まり返っていた。

 それにしても桜庭、所の敗退にしても異常なくらい淡泊でみんな(オレも)この結果を皮膚感覚として見切ってしまっていることが悲劇だ。スターの敗退を見切っていることなど完全に歪んでいて今の彼らが勝つということのほうに、桜庭VSガレシックや所VSカラムのような感動の物語を求めているのだろうが、それよりもマッチメークが酷過ぎるゆえに、というかその時点からもう見切ってしまっており、「ありえないけど逆転勝利したら儲けものだよね」くらいの欲望しか喚起されてないのだ。

 青木の北米敗退以降、様々な欲望を喚起させるセクションが断たれていき、いよいよDREAMのマッチメイクがいかにして決まっていくのかまでファンがじょじょに知り始めることによってさらに失望が深まる現状、今回地上波ゴールデンにて完全に今のMMAの奔流は「メジャー」の欲望を多角的に喪失した現状を露呈させてしまった。

 前回の直前の分析にて「石井慧VSミノワマンの決定によって現在の日本MMAのマッピングが行われた」と書いたがその実現によって生まれた光景は、このカードによって関係者などが「逆転ホームランだ!」などと「メジャー」を立証させる試合の決定に沸いていたのだが、その「メジャー」がひたすらなんの欲望も喚起させない会場の沈黙によって迎えられたということが今番組中最悪のシーンだった。

 戦前ミノワマンの勝ちを予想する声がネット上でもちらほら見られたにも関わらず、いざ試合が始まり石井にグラウンドで抑え込まれ、また足間接を極めかけるシーンを見せ、劣勢を挽回するような瞬間が見られもしたのにいっさいのミノワを応援する歓声も起きなかった。
 
 会場の客がすべてコアなファンだとするならこのカードは「地上波だから必要だよねどうでもいいけど」という冷たい感情によって迎えられているようにさえ見え、石井が、ミノワが勝つにしても負けるにしてもどうでもいい。そうした気配が充満していた。

 日本にとってのMMAとはゼロ年代にはありとあらゆる幻想を実現させることで解体していく過程そのものだ。2010年代の現在もはや壊すべき幻想も失われた中で、MMAという新興競技だけが残った「メジャー」の現状の光景がこれだ。石井慧の物語というものなど、「MMAでの成長の物語」だとか誰一人として欲望を喚起させられない。
 
 今の「メジャー」と呼ばれるもののあらゆる失望を知りすぎているゆえに、この恐るべき沈黙の光景が生まれたようにさえ思った。「もう地上波の時代じゃない」「2010年代らしいメジャーを目指すべき」という声がある中で、完全に旧型のメジャーの現在の有効性を観客である我々が沈黙によって裁定をくだしたように思う。

 もはや石井・桜庭・所など「地上波によるメジャー」としての格闘技にも、またそこから真逆を行く青木・川尻・菊野らの「対北米としての日本赤軍テロ格闘技」の強硬化した気配も、純粋な欲望を仮託する対象として遥かに遠ざかった現状にあり、本ブログは格闘技バブル後のファンのブログの沈黙の声を探る作業から始めようと思ったのだが、まさかリアルタイムでの沈黙の声を探るまでになるとは思いもしなかった。
 UFCにおける五味隆典の快勝みたいにもう日本MMAはUFCに占領してもらったうえでGHQのように整備しなおしてもらうという再生の道の言説もあるけどほんっとに「アメリカに背中合わせになってもらったほうがやりやすい」がここでも暗に求められてるなんて気分まであるとしたらそれもまた悲劇だ。



 そんな地上波メジャーの憂鬱とも対北米の物語という強硬化した競技力の問題の引き裂かれ方の絶望の中で、唯一の希望と映ったのは小見川道大高谷裕之の難敵相手の快勝だ。

 エスコベドとチェイス・ビービというどう考えても簡単に勝てない相手で攻めあぐねる可能性も無きにしも非ずな彼らに対し、KO・1本勝ちという結果によってリスクを制したのは素晴らしい。特にリーチ差や実績、三角締めを得意とする柔術の実力など、ここ最近では同系統の相手のミカ・ミラーとの闘いを攻めあぐねた小見川にはこの試合はかなり厳しいものになると思っていただけに柔道時代から得意としていたらしいあの形のアームバーによって一本勝ちした価値はかなりでかいと考えている。

 さらにこの二人がマイクでやり取りしてるの良さもあって、まさか2009年大晦日での自分のベストバウトとなった試合を演じたこの二人が今の日本MMAの「メジャー」の失地回復の希望に思えるくらいまでなるとは思いもしなかった。
 「ネームバリューのみでのメジャー」による間違った欲望の喚起とも、「対北米で結果を出す」という限定的な欲望の喚起とも別に彼らで物語を紡ぐことは、静まりかえった会場から再び歓声を取り戻す契機になると思う。それこそが大衆に提供する格闘技のソフトとして落ち着くラインであり、マジで運営側も上手く使って彼らを「メジャー」にしてくれと切に願う。

 

 
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Comments

UFCの塩膠着を見慣れてしまったせいか、今回のDREAMは私的には言う程つまらない興行ではなかった、というのが正直な感想です。
ただ、沈黙を守る観客や、2chでの「つまらない」という書き込みの列を見る度に思うのは、そもそも日本において、格闘民度が成熟した「コアファン」というのは、言う程に存在していないのでは、ということですね。
ジャンルを未来永劫支えていくためには「コアファン」こそが、受け身に回らずに自分から能動的に格闘技を楽しむ術を見つけていくことが重要だと思いますが、今の現状ではその彼らが「ライトファン」と同じく、受動的に刺激を欲しなければ格闘技を楽しめない体質になってしまっている。
やはりPRIDEは麻薬でしたね。膠着が多い、マニアックなMMAという競技を面白く見せるための、最高の舞台装置でしたね。あの魅惑の味を覚えてしまったら、普通の競技MMAなどに心を揺れ動かされることはありません。
Re: 銀玉様
> UFCの塩膠着を見慣れてしまったせいか、今回のDREAMは私的には言う程つまらない興行ではなかった、というのが正直な感想です。

 そうなんですよね。純粋な試合内容のみで語ればぶっちゃけKOや一本での決着と判定との比率自体は悪くは無い。しかしだからこそ、もう試合内容が今回の沈黙を形成したわけじゃねえな、というもっと取り返しのつかない段階にあると見ました。

> そもそも日本において、格闘民度が成熟した「コアファン」というのは、言う程に存在していないのでは、ということですね。
> ジャンルを未来永劫支えていくためには「コアファン」こそが、受け身に回らずに自分から能動的に格闘技を楽しむ術を見つけていくことが重要だと思います。

 もうMMAのメジャー=国民的、大衆的みたいな区分がオリンピック金転向でもダメになっていることがとにもかくにも、わかってたとはいえキツかった。
 自分が思うMMAにおけるコアファンについて想起させられたのは紙プロのコラムを連載されている椎名基樹氏が「UFCとアウトサイダーしか見ない」と言ってることで、実はもうコアファンほど日本メジャーに対して諦めてる印象があるように思えます。また主催者もMMAファイターたちも欲望を背負うことに関してかなり無頓着でもあるし。
 K-1は歴史に救われている、というのが自分の今年の評価なのですが、日本MMAが歴史解体の過程にてバブルを起こした故に、いまだにメジャーに関して救いが無い。今回そんな救いのなさが極に達してました。

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