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猪木寛至に戻るとき

Category: プロレスの生む物語   Tags: プロレス  
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ここ数年は自分がどんなふうに年を取るかどうかをよく考える。ポピュラーカルチャーに絡んだ仕事を重ねていくと、いつまでも20代や30代のイメージのままの人たちをたくさん目にすることになる。まるで年を取る事実を見ないものとするかのように、ずっと若い彼らを美しくも惨めとも言えないまま眺め、テキストを書くことは少なくない。

これはアイドルだとか、ミュージシャンだとか人前に出る職業に限らなくて、もくもくとスタジオで作品を生み出す人たちだってそうだ。事実、いまヒットしてるエヴァンゲリオンなんて監督は60代を過ぎているのに「大人になった、あるいはそうではないか」みたいな批評が溢れかえっていた。自分よりはるかに年を重ねている人たちが作品解釈のテーマをそう考えてしまう姿は、批評の内容以前にやはりこれから年を取ることがいったいどういうことかを考えるのに十分だった。

そんなことを思いながらいつものようにYoutubeを開くと、考えもしなかったところから “年を取ること”について示唆を与える映像が目に入った。アントニオ猪木の現在である。

あまりにも大きな人物ゆえに、むしろ目にしていなかったところからポピュラーカルチャーにおける加齢の現実が鋭利に突きつけられているように思えた。



難病にかかった猪木の姿は明らかにマスイメージからかけ離れていた。リアルタイムでの姿を見たことがなかった自分でも動揺するくらいなのだから、黄金期を知るファンの心はどうなのだろう……いや、準備していた光景なのだろうか。

しかし自分の動揺は難病とリハビリというよりも、「いつまでも同じ」マスイメージが剥がれた瞬間にあった。あのキャラクターを成立させる体力がなくなり、もはやプライベートの自分を露出せざるを得ないのだが、なおもマスイメージをやり切ろうとする姿。自分はそこにポピュラーカルチャーの老いの、残酷な姿があるように思えた。

自分が見てきたなかでプロレスラーの晩年を思い出していても、年老い、プライベートの姿というのを鮮烈に衆目の前に晒した人はほぼいない。みんな、何らかのマスイメージの中で去っていった。自分には、猪木のケースはほとんどプライベートの猪木寛至の姿に引きずり込まれそうになるのを、何とか坂道に爪を立てて持ちこたえようとしているかに見えた。

日本のポピュラーカルチャーのアイコンとして最高のひとつといっていい猪木の剥がれ方を見ながら、ふと、ブレイディみかこさんが晩年のデヴィット・ボウイについて書いたテキストのことを思い出していた

アンチエイジングにしゃかりきになっているロックスタアたちへの逆張りを、誰よりもロックスタアだったボウイが始めたように感じたからだ。(中略)2013年以降は「いま一番ロックなのはボウイだ」と酒の席で言い続けてきたのだ。

権力を倒せだの俺は反逆者だの戦争反対だのセックスしてえだの、そういう言葉がロックという様式芸能の中の、まるで歌舞伎の「絶景かな、絶景かな」みたいな文句になり、スーパーのロック売り場に行儀よく並べられて販売されているときに、ボウイは「老齢化」という先進国の誰もがまだしっかり目を見開いて直視することができないホラーな真実を、ひとり目を逸らさずに見据えている。そんな気がしたのである。

eleking「追悼:デヴィッド・ボウイ」より



このテキストには自分が考えている、ポピュラーカルチャーと年の取り方のことがよくまとめられている。テキストの後半には「クール。というある世代まではどんなものより大事だったコンセプトを復権させるためにボウイは戻って来たのではなかったか」と言及され、「ボウイのクールとは、邦訳すれば矜持のことだった」と記している。

自分には “矜持”という言葉が “美しくも惨めとも言えない”感情を語るのにぴったりなように思えた。老いや年の取り方に向かい合うということは、やはりある種の矜持を持つことであって、自分にはポピュラーカルチャーが永遠の若さを売り物にする以上、矜持がないように、矜持を持つ時間を重ねてこなかったかのように見えることがある。

Youtubeの小さなモニターの中で、白髪を隠さない猪木がいつものフレーズで動画をまとめているのを見ながらふたつのことを思う。

ひとつは。ここまで自らの体力が落ちてもマスイメージのキャラクターをやろうとする姿を見せようとするのも、確かにある種の矜持はあるのだろうということ。もうひとつは、いつまでも同じようなマスイメージの人々もいつの日にかすべてが崩れ去る瞬間がくるということである。

そして猪木(とその周囲)がマスイメージのままでいることを選ばず、マスイメージが崩壊していく姿をもそのまま映そうとしたことに、年を取ることのひとつの意味があるように感じられるのだった。
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テーマ : プロレス    ジャンル : スポーツ

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