オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


英国領土オクタゴンの中のアジア

Category: 「見立て」の格闘観戦記録   Tags: MMA  UFC  秋山成勲  
疑似的な南米

<<UFC120 マイケル・ビスピンVS秋山成勲 観戦記録>> 

 UFCデビュー以後の秋山成勲選手がこうして今回メインイベントに抜擢されるまでに至る要因としての、欧米の価値観による東洋の不可解さ・不気味さ、その裏返しとしての神秘性というものを体現しているように映り、特に今回のイギリス大会にて、「ベッカムに匹敵する人気」ともネットの噂で聞いたほどの人気を持つマイケル・ビスピンというその国のエースの勝利が望まれる大会の一戦の中でさらに、ここ日本では「格闘技史の立役者である桜庭を汚した悪」というドメステイック意味の強い後味の悪さを、こうしてUFCに上がる中で、他のアジア人選手の誰よりも「東洋性」として転化させているように思えた。
 「SEXYAMA」というのはそういう意味では日本国内では生々しい「ヌルヌル」「魔王」というあからさまな格闘技バブルファン(※関係ないが「Pヲタ」とか「Kヲタ」とかいう蔑称があるけど、いまだにあの時代の価値観を持てはやすような人間を「Bヲタ(格闘技バブルのオタクだからB)」と呼ぶことを提唱したい・笑)のネットヒステリーによって印象付けられている生々しさが、欧米では「不気味な、でも神秘性もあるアジア」の解釈が見えるニックネームとして転化したことがその象徴のように思える。


ジョン・ハザウェイ(英国) ●(3R判定 0-3) ○ マイク・パイル(米国)

 正直言って今回の興行全体を通しての印象は良くはない。今回だけではないが単純に膠着による判定決着が続いたのを見ていてそろそろUFCもルールから副賞までを見直して、今よりもスペクタクルを生みやすくするためにある程度のテコ入れは必要のように思った。とはいえ、旧PRIDEのような「膠着を誘発させることへのイエローカード」「KO・一本を取りに行く姿勢を重視したポイント制」といったイベントを沸かせるための改正は難しいだろうし、F1やサッカーのルール改正のように純ショースポーツのような厳密なレベルでの改正になるのだろうな、とも思った。(それもまた、UFCが到達した「限りなく他のショースポーツに近い格闘技興行」という高い領域の悩みとも思うが)

 さて14戦全勝という経歴を引っ提げ、イギリス興行のハイライトを生むことを期待されただろうハザウェイの不敵さは、解説の高阪剛氏の「全勝できてる選手にはまだ怖い経験が無い。」という試合前の言葉通りの、厳しい展開となった。
  
 試合の序盤の展開には決定打こそないが、その動きに少しの盤石さを感じるほどのハザウェイの不敵さは、中盤パイルにグラウンドで逆三角の形で固められたままパウンドを受け続けることで大きく崩され、追い詰められながらもしのぎ切った所にホームで闘っていることの意地を感じたが、さすがにこれが響いたか3R以降にはその不敵さは失われたままになっていた。「ホームの大会にて全勝の新鋭が勝利する」という目算が外れた光景は、それは無念とは思えたが、同時にこの無念さの質は現地のイギリスの観客には果たしてどういうレベルのものだろうか?とも思った。「他のスポーツで自国選手・チームが敗れたような」感じなのだろうか?イギリスにおける客のMMAに対しての感覚が気にかかったりした。

ダン・ハーディー(英国)●(1R 4分27秒TKO) ○カーロス・コンディット(米国)

 ダン・ハーディの入場に大きな歓声が上がり、アメリカのコンディットに対してブーイングが与えられるという、ハーディの派手なヘアスタイルからアピールの仕方などUKパンクは抵抗の歴史から周回してこうした形で自国の文化として消化することで「英国性」に戻ってきているように映る形で今大会にセットされている「英米の対立」というコントラストはこの試合が最も際立ち、おそらくはフックが足りなくて戸惑ってるだろう観客の期待も歓声に現れているように見えた。実況の「GSPに善戦した我慢強さ」というハーディの評は褒めているのかどうかはわからないことよりも、典型的な「こんなパンキッシュななりだけど本当はいい人」というあからさまな消化しやすいだろう印象を与え、だからこんなにも人気があるのだろうなと思わせた。

 しかしそんな愛されるイギリス人ファイターとWECから上がってきたアメリカ人の闘いは全くハッピーエンドに導かず、互いのパンチが交錯したのをハーディが被弾してKO負けとなってしまった。
 が、勝者のコンディットには、おそらく日本では桜庭が初めてシウバに負けた時には観客はこういう感じでもあったのだろうなという、愛される選手が敗れた時に生まれた感情、半ばドメスティックな感情での敵視(乱雑に言って日本と韓国のような)のあるアメリカに対しての感情が、ブーイングとなって浴びせられ、敗北しながらもマイクを受けるハーディに対しては歓声が上がった。
 
マイケル・ビスピン(英国) ○(3R判定 3-0) ●秋山 成勲(日本)

 ハーディの愛され方と、コンディットへのブーイングから見えた、かつてから存在する英米のコントラストというのは興行のメインになってもおかしくはないだろう、やはり日韓戦のギミックに近い感情を呼び起こすものだが、しかしサッカーのような国際大会と別で、やはり興行であるUFCでホームでの自国選手の快勝、というのもこの試合のように約束されてはいない中で、「ビスピンVS秋山」の「英国のエースVS東洋の不気味・神秘・セクシヤマ」という対決のギリギリの設定にはこうして振り返って、いささか結果論ではあるが唸らされるものがある。

 というのも、元々ライトヘビーから落としてきたというビスピンと、アラン・ベルチャー戦・クリス・レーベン戦を通して指摘される体格差を問題とされるUFCでの秋山というのは、両者の戦績を比較しても若干の差があり、魅力的なマッチメイクであると同時に、ホームでの人気選手の勝利という興行の結末を迎える可能性の方に近いという絶妙さであり、こうしたマッチメイクが出来るのもUFCの選手層の国籍・人種を含む層の厚さに由来したものだということを改めて思い知らされる。

 ビスピンへの歓声の中で、おそらくは「日本人」「韓国人」「中国人」でもない「東洋の不気味さ・神秘」とひとくくりにされた面のあるだろう、秋山の柔道着での、正座しての一礼による入場には、若干の歓声が送られた。この光景の中で逆説的に英語圏での、半ば類型的なアジアの解釈というものが見えたように感じ、それが選手名がブルース・バッファーによって読み上げられる時に、いつもの赤ではない、白のトランクスに縫いつけられた日本と韓国、ふたつの国旗を指さして礼をした中で、日本国内での生々しい悪性がこうして欧米の意識の中のアジアに嵌まることの衝撃というのを、今更ながらに確認する。これに匹敵するアジアの不気味さ・神秘を欧米にて発揮できそうなのは今年引退してしまった朝青龍くらいしか思い浮かばない。MMAに転向しろってことじゃなく、モンゴル・韓国出身の人間が日本での活動にて「ヒール」と称され、生々しい感情に当てられた人間のドメスティックな感情を通して欧米の何らかの舞台に上がる瞬間のアジア性の強度を逆算して、そう思った。

 試合開始早々に秋山が得意の右をビスピンに当てた。この瞬間の「東洋の不気味さ」というのは強く発揮され、「ビスピンの勝利によるハッピーエンド」など一切用意されていない厳しいリアリズムによって試合が始まる。この興行でのイギリス勢が負け越し、観客のテンションが落ちているのを悟ってなのか、ビスピンも観客を煽るポーズを取る。

 2Rに秋山は圧倒するかのようなパフォーマンスを見せたように思えたが、3Rからの、スタミナが切れ始めたのに加えビスピンに見切られての距離の作られ方からは非常に厳しい展開を迫られる。こうした状況に映る「アジアに一時圧倒されるが、最終的に英米が支配する」という旧来からの構図の見事なまでの再現は、金的中断の流れの中断はあったとはいえ、この試合の完成度の高さに一役買っているように思えた。
 こうしてフルマークでビスピンは勝利し、英国興行をなんとか締め、米国に負け越しながらもアジアを破ることでなんとかプライドを保ったように見え、ちょうどこの大会結果自体が英米とアジアというパワーバランスの微妙さを表現しているように映ったのだった。ビスピンVS秋山には「ファイトオブザナイト」賞が付けられることも文句は無かった。(無論若干大会が低調だったのもあるが)

 「UFCで2敗以上の敗北によって契約が続けられるかわからなくなる」というのはあるが、どうも秋山に関してはそういう価値とはまた別のように思え、それは「厚遇されている」ではなくこのままミドル級で意味の強い闘いを作るよりも、すでに識者が発言してるようにウェルターへの階級変更が行われると思う。

 それでもし階級変更しての秋山の相手として自分が見たいのは、今度マット・ヒューズとのラバーマッチを闘うことになるBJ・ペンとの一戦だ。(ウェルター契約ですよねこの闘い?笑 間違ってたら失礼)秋山VSペン。この意味の強さは日本人しか感じえない微妙なものかもしれないが、五味選手や青木選手の文脈なんてそこまで知らないズッファが組みかねないってのも込みで見てみたい。(そういやペンはLYOTOと試合していたな)

 

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Comments

東洋の不気味さ・・・そう言われてみると秋山は細いつり目で薄い唇にうりざね顔。五味や岡見に比べて解り易い日本人顔でオマケに元柔道選手と、欧米人にとってブルース・リーの様な中国系とはまた違う真新しいエキゾチックさを感じさせるキャラかも。それにGSPのワセリン塗布を「卑怯だけどレフェリーが気付かんかったなら仕方無いよね」で済まされてるしドライな欧米では、桜庭戦以降の日本ファンの嫌悪感など殆ど無いんでしょうね。せいぜいジョシュのドーピング程度の事なのかな?
それにしても日本では悪魔超人1000万パワーの如きパワーの差を見せつけた秋山や大型だったカーンが、今のUFC行くと普通以下になってしまうんですね・・・ちょっと悲しい。
でもお腹が出てる選手が普通のミドル級の方が本来オカシイんだし、ペンとのウェルター級試合も見てみたい。
Re: ボブサップ大好きさん
> 東洋の不気味さ・・・そう言われてみると秋山は細いつり目で薄い唇にうりざね顔。五味や岡見に比べて解り易い日本人顔でオマケに元柔道選手と、欧米人にとってブルース・リーの様な中国系とはまた違う真新しいエキゾチックさを感じさせるキャラかも。

 UFCにて少なくない数のアジア人ファイターがマットに上がりましたが、振り返ってみると英語圏内のイメージしているアジアにハマったケースって実質それほどなく、やや本論とずれるかもですがリョートやカン・リーのようにその実アジア生まれではない北南米育ちで空手や拳法を習ってるって方がずっとイメージに適応してるのが興味深くて、さらに突っ込んで考えると国籍に関しても越境してたりするんですよね。日本国内で形成されたヒール像に、非常にナイーブな問題ですがそのあたりの日本と近隣アジア諸国との対応に関してのドメスティックな問題も無関係ではないと考えており、それが英語圏に映るとイメージ通りのアジアとして嵌まるのか?など。

 英語圏内に形成されたアジアのイメージというのは現在進行形の秋山成勲はじめ、映画俳優の渡辺謙から遡ってブルース・リー、ジャッキー・チェン、さらに遡って戦前のアメリカに渡った映画俳優・早川雪州などの歴史なんかが元にあるのだろうか?とも考えております。

> それにしても日本では悪魔超人1000万パワーの如きパワーの差を見せつけた秋山や大型だったカーンが、今のUFC行くと普通以下になってしまうんですね・・・ちょっと悲しい。
> でもお腹が出てる選手が普通のミドル級の方が本来オカシイんだし、ペンとのウェルター級試合も見てみたい。

 ウェルターでの秋山選手に当てられるとしたら、やっぱここんとこヘンゾ戦などの意味を重視したマッチメイクを組まれるマット・ヒューズや、ものすげえタチの悪いジョシュ・コスチェックあたりが組まれてもスイングしそうでいいなあと考えております。自分で書いてて秋山対コスチェックは絵がいいなあなんて思ってしまいました(笑)

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