オウシュウ・ベイコク・ベース廃墟


刃牙と見えないカマキリ・プロにならなかった神代ユウ・2000年を過ぎた後の格闘技漫画<後編>

Category: もうひとつの格闘技史   Tags: 木多康昭  森恒二  
鳥幸

<<2000年になる前の、「最強幻想」に引っ張られた想像力の前篇はこちらから>>

「最強を決める格闘技イベント、PRIDEの登場」によって相対的に弱体化を余儀なくされていったジャンルは、決してプロレスだけではなく、思うに疑似的な形で想像上の「最強」を表現しようとしたメディア全てに、直接的であれ、間接的であれ影響があったと思う。今回は格闘技漫画の代表「グラップラー刃牙」が何故ハイテンションで混乱しだしたか?の契機についての考察と、最後まで主人公がプロ格闘家にならなかった「ホーリーランド」に映る意味、そして連載中断からついに今年、再開された「修羅の門」の空白についての、「最強」の幻想を描く想像力に関しての変容の話。

 いよいよ2000年を過ぎてからの後編、「最強」の舞台実現後の想像力についての考察。


<<BGM・【巡音ルカ】 「ダブルラリアット」>>

  「何が最強なのか?」を決める場としてのK-1・PRIDEの登場による格闘技バブルが起こる以前までが、思うに現実がそういう場を模索していたのと並行して他ジャンルの想像力も極に達していた時期だと感じ、あのゼロ年代に起きたバブルがもたらしたものは、結果として格闘技自身をも失わせた以上に想像力を喚起させるロマンチシズムや幻想や異形性を一挙に喪失させたことだと思う。 それで後編のテーマは「ロマン消失以降の格闘技漫画の想像力と”喧嘩”」ということがポイントだ。

十

 そういう時代の中の格闘技漫画、ということではパッと見、諧謔とパロディに満ち満ちた作風の木多康昭「喧嘩商売」は、暴投変化球かと思いきや元々そういう悪戯に欲望を仮託したり強烈な自己投影をしたりするタイプと真逆を行く、過剰な諧謔のその裏でクールな視点であることが効果的に働いたと見るのが、元々の初期設定として「あらゆる格闘技が存在しているが、その中で喧嘩での最強の格闘技は今だ決定されていない」という、「最強を決めるイベント」の題目を持つPRIDE全盛時代、バキも人と闘わなくなっていく2005年に連載スタートした格闘技漫画のコンセプトとしては、かつての「最強幻想」を描く文脈の脱構築としては絶妙なラインで、「主人公が古武術でライバルが空手」の序盤の展開の既視感などもワザとなのかマジなのか、つまり「修羅の門」のパロディなのか本気で踏襲しているのかの微妙であるところに、本作が格闘技漫画の描いてきた歴史と、想像力の現在をかなり自覚してのものであることが重要だと思う。元々の格闘技それ自体をモチーフにする以上に、格闘技の「最強」の幻想を元にした強烈なロマンチシズムに対して作者が欲望を思い切り仮託するか自己投影するかで発展してきた格闘技漫画というものそれ自体がパロディにするにせよモチーフになっている。(最近の連載長期休載も込みで考えてこれも「修羅の門」のパロディの一環でもあるようにすら見えてくる・笑)。

 そういう意味で、「喧嘩」というのは「ジ・アウトサイダー」をここで簡単に持ち出すのはまだ控えるにしても、これまでの「最強幻想」のロマンチシズムが現実の実現によって切れた時代の中での格闘技漫画の隙を突くモチーフとしては意味深く、それは「ボクシングや柔道みたいなある格闘技のチャンピオン同士が喧嘩したらどっちが強いの?」という意味の昔ながらのロマン込みの喧嘩、という意味ではなく、最強を決めること、それ自体に価値が重んじられることの無くなった時代の中での喧嘩という視点には、乾いた生々しさが残る。

ホーリーランド

 「喧嘩商売」と時系列が前後してしまうが、「桜庭和志VSホイス・グレイシー」の2000年に連載がスタートした森恒二「ホーリーランド」が最強幻想のロマンチシズム弱体化の時代に喧嘩がドライにクローズアップされる意味としては最上だった。
 
 基本、「はじめの一歩」的にいじめられっ子が喧嘩という形ながら格闘技と仲間たちとともに成長していく定番の構図であるが、街での喧嘩なのに異様に流派や技術論が重視されたり、ラストに控える敵が中国拳法とかの微妙な説得力のなさなどから突如としてスタートする作者自身の実体験のナレーションなどについてつっこむことはどうでもいい。この作品で思うに最も重大だと思うのは最後まで主人公・神代ユウがプロ格闘家になって、プロの舞台で闘っていくという姿を見せなかったことで、後発的にショックが大きかったのはその点だった。 

 本エントリでは若干文脈が異なるため言及はしていなかったが、もともとの物語構造を考えても、ボクシングの「はじめの一歩」のように確かなスポーツに触れることによって人格を矯正され、世間的に認められる世界チャンピオンを目指すことで、充足感を得て社会に適応する、というようなタイプがこれまでハッピーな展開だったはずで、基本形が格闘技の技術を仲間と共に覚えていって、みたいな展開なのに乾いた、冷たい印象が残るのは、神代ユウが格闘技を習得していくことで目的としていく部分にそうしたスポーツによる社会的な成功や充足が重視されていない点であるし、また格闘技の最強を目指してプロ格闘家に、という展開には最後までならなかった。
 一応、物語中で「表舞台で会おう」というようなセリフもあるし、ラストにはライバルがキックのプロ興行に出場するというシーンもあるし、決して無視されてはいないとはいえ、作品が継続するにあたって「第2部 プロ格闘技編」みたいにシフトすることもあっただろうと(あ、この先やる可能性もあるか)思うのだが、最後まで喧嘩で通した。このことの意味深さというのはプロスポーツとしての格闘技にしても、「最強」を目指す幻想のロマンを仮託する意味での格闘技にしても、もう救いの対象ではなくなってしまっていることのようにさえ見え、路上での喧嘩によって仲間と共にいることで救われる、ということのドラマツルギーの核の部分から逆説的に判断される旧来からの価値の総合的な弱体化が、冷たく乾いた印象に繋がっているのだと思う。

 このあたりの権威あるスポーツに適応することで同時に社会に通じていくとか、最強を志すことでむしろ大きく逸脱して突破することでカタルシスを与えるとか、そうした価値がみんなうすうす死につつあることを気付いていながら今も生きてることを信じようとする現状に(ちょうど今現在の日本のギリギリの格闘技人気のように)、直截的ではないにせよ暗示しているかのようにこの作品は映った。PRIDEが崩壊し、旧DSEがFEGと合併する形で生まれたDREAMがスタートし、そして「ジ・アウトサイダー」が旗揚げされる2008年に連載は終了する。



 巨大なロマンチシズムを現実による実現、そして崩壊の中で失ったあとの格闘技に対しての想像力が描く、こうした「喧嘩」という形でのドライさというのは、巡りめぐって自分の中ではとっくのとうに現実の総合格闘技が「最強」を実現するフォルムでは無くなり、旧来の格闘技漫画、バキなどがバロック化していく時代に置いて、新規の格闘技漫画が「オールラウンダー廻」「鉄風」のように「MMA」としてスポーツ化したものになることで対応していることに繋がる。それはなんとなく、もはや「MMA」が最強を表現する場としてのものではなく新興競技化した現状、今の効用として今年1年に感じることはメジャーが下手にあの青木VSメレンデスのように生半可に「最強を表現する場を取り戻す」とかいうものが期限切れになってる一方では、ジ・アウトサイダーから修斗、女子格闘技から感じられるのは、単なる煽りやエンタメのほかに純スポーツとしての社会的な保証も権威も無いというレベルも込みの虚飾のない、デジカメで直撮りした映像のようなドライな世界をどのスポーツよりも表現する媒体としてのMMA、喧嘩と競技化というのが今の気分だ。
 
 高田VSヒクソンを目前にした1996年の休載から14年、「修羅の門」は、そうしたドライな世界の2010年についに封印をついに解いたのだが、それが何をこれから意味するのかはこれからの展開によってハッキリするのだろう。久しぶりの陸奥九十九は、オープンフィンガーグローブで闘っていた。
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Comments

個人的には軍鶏のアングラ感も好きでした。
バキも最初はロマンたっぷりでしたが今は微妙。
そういう意味では喧嘩商売の作者は格闘技界のロマンをちゃんと理解しているなと思います。
887-8798さんがダブルラリアットを知っているのに驚いた。
Re: 刺青怪人様
> 個人的には軍鶏のアングラ感も好きでした。
> バキも最初はロマンたっぷりでしたが今は微妙。
> そういう意味では喧嘩商売の作者は格闘技界のロマンをちゃんと理解しているなと思います。

 今エントリ以前として、現実とクロスさせようとした梶原一騎作品や、「1、2の三四郎」「柔道部物語」の小林まこと作品なんかについては「現実に格闘技界が実現する直前の想像力の爆発以前、以後」とちょっと別なので省いてしまいましたが、この編もいつか書こうかなあと思っております。

> 887-8798さんがダブルラリアットを知っているのに驚いた。

たまたま知って「よしいつか記事に使おう」と思って先延ばしにしてるときに、ちょうど今回「ホーリーランド」という作品の気配と音楽の世界感が合うかな?と思って使って見ましたが、見事にズレました(笑)

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